札幌地方裁判所 平成3年(ワ)5134号 判決 1992年4月22日
原告
株式会社ナイガイコーポレーション
被告
株式会社アジアヘリコプターコーポレーション
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金五六〇万二〇四四円及びこれに対する平成二年六月二三日より支払ずみまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同じ。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、レジヤー産業機械・建設機械・鉄骨建設物・運搬機械・環境衛生設備等の設計・製作と販売を業とする会社であり、訴外西村研一は原告の取締役、訴外丸山悦夫は原告の部長であり、かつ、原告の新設子会社である訴外内外トレーデイング株式会社の代表取締役であつた。
一方、被告は、外国製ヘリコプターの輸入総代理店であつた。
2 事故の発生
平成二年五月一四日、訴外西村及び同丸山は、被告の従業員であるヘリコプター操縦士宮前節雄が、被告の前田多男社長の命により被告の事業のために操縦するイタリア製アグスタ一〇九Aニ型機に搭乗したが、同日午後四時半ころ、宮前操縦士の運転ミスにより同機が札幌市の藻岩山北斜面に激突した結果、死亡した。
3 損害の発生
本件事故により、原告は次の損害を被つた。
(一) 社葬費 金二七三万六八一三円
内訳
(1) 札幌典礼株式会社支払分(祭壇費=支払日平成二年五月二一日) 金一五三万九八五〇円
(2) 道新サービス支払分(広告料=支払日平成二年五月二四日) 金一一五万五七六三円
(3) 有限会社星川写真館支払分(写真代=支払日平成二年五月二八日) 金四万一二〇〇円
(二) 葬儀に関連する役員・社員関係支出費用 金二八六万五二三一円
内訳
(1) 役員の航空券代・宿泊費用等支払分(支払日平成二年五月二四日) 金七七万二五〇〇円
(2) 来道役員に支払つた葬儀関係日報酬支払分(支払日平成二年六月二二日) 金七六万七三七二円
(3) 道内役員に支払つた葬儀関係日報酬支払分(支払日平成二年六月二二日) 金一三二万五三五九円
4 原告の損害と本件事故との因果関係
(一) 訴外西村は、昭和四四年に原告に入社し、昭和五九年赤平工場長、昭和六二年以来同工場長と札幌機械事業部長を兼務し、原告の主要な営業活動の責任者であり、また、訴外丸山は、原告の在籍期間は一年一か月であつたが、同訴外人が元三菱自動車販売株式会社常務・更生会社管財人代理等を歴任し、行政・経済界その他の団体等に広範な人脈と信望があり、原告が近年航空関係事業に事業活動を展開しようとしていたことから、平成元年四月に入社し、また、原告がその子会社として新設した訴外内外トレーデイング株式会社の代表取締役の要職にあつた。
(二)(1) 原告は、航空関係機器の製造・販売を行つていたばかりか、従来から各地のリゾート関係事業に参画し、特にスキー場リフト建設工事、山間部鉄塔建設工事等については、ヘリコプターを使用して荷物運搬を行つてきた。しかし、チヤーターしたヘリコプターに要する費用は莫大な金額となり、機体の回送費、整備士操縦士の人件費、臨時ヘリスポツトの建設費等についても多額の費用を必要としていた。
そこで、原告において自家用ヘリコプターを所有し、建設工事に利用することはもとより一般貸出等を行つて、航空機関連事業を充実させるべく検討を重ねていた。
(2) また、原告の子会社として設立された訴外内外トレーデイング株式会社は、原告の支援の下で、道内ローカル空港開設事業及びスカイスポーツ振興のためのパラシユートプレーンの販売等の事業を行つており、その一環として平成二年五月一五日に、赤平空港で北海道パラプレーン協会主催の空港開設記念式典とパラプレーン及びヘリコプターのデモフライが行われることとなつており、その際に本件事故を引き起こしたヘリコプターの試乗が行われることとなつていた。
(3) 訴外西村及び同丸山が本件ヘリコプターに搭乗したのも、原告の前記事業展開の一環として原告の社命により試乗したものである。
(三) 原告が、本件事故で死亡した訴外西村及び同丸山の社葬を行つたのは、(一)及び(二)の事情によるものであり、原告の前記損害は本件事故と相当因果関係の範囲に属するものである。
5 よつて、原告は被告に対し、民法七一五条による損害賠償請求権に基づき、金五六〇万二〇四四円及び不法行為ののちである平成二年六月二三日から支払ずみまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2 同3の事実は知らない。
3 同4の(一)、(二)の各事実は知らない。同(三)は否認する。
4 同5は争う。
第三証拠
一 原告
甲第一ないし第一四号証(技番を含む)
二 被告
甲第二号証、第九ないし第一二号証の各一の成立は認める。その余の甲号各証の成立は知らない(甲第三、第四号証については、原本の存在も知らない)。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告の支払つた請求原因3の(一)の社葬費及び同3の(二)の葬儀に関連する役員・社員関係支出費用が本件事故と相当因果関係の範囲に属する損害かどうかについて判断する。
一般に、事故により死亡した者のための葬儀費用は、通常死亡者の社会的地位、職業、資産状態、生活程度等を斟酌して、社会通念上相当な範囲に限りこれを負担した遺族の損害として加害者側が賠償すべきであると考えられるところ、社葬は、死亡者の使用者たる会社が遺族による葬儀とは別に従業員の生前の功労に対し、これに弔意を表するため自己の負担において営むものであり、しかも、いまだ一般社会において必ずしも慣行化しているとまでは認められないから、事故による死亡者のため使用者たる会社が社葬を営んだとしても、これによる諸費用の支出をもつて事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
なお、社葬のほか遺族自身による葬儀が営まれず、遺族が社葬をもつてこれに代えたものと認むべき事情の存する場合にあつては、会社が遺族の有する損害賠償請求権を代位取得するものと解されるが、本件においては訴外西村及び同丸山の各遺族と被告との間には葬儀費も含めた全損害について示談が成立しており(弁論の全趣旨)、原告は、遺族の有する損害賠償請求権を代位取得したとして本件請求を行つているものではない。
以上によれは、請求原因4(一)、(二)の各事実が認められたとしても、原告が支払つた社葬費及び葬儀に関連する役員・社員関係支出費用は本件事故と相当因果関係のある損害とは認められないから、原告の被告に対する本訴請求は理由がなく、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 前田順司)